大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)1432号 判決

被告人 長場雅

〔抄 録〕

本件公訴事実は、被告人は法定の除外事由がないのに、昭和三十二年十月十九日午前十時十五分頃、長岡市千手町一丁目六百三十一番地先附近道路において、第二種原動機付自転車の後部荷台に石田敏雄(当時二十六才)を乗車させて運転進行したものであるというのであつて、右の事実は原判決の挙示する各証拠によつてこれを認めることができる。而して、右事実は道路交通取締法施行令第四十一条に基く昭和三十一年新潟県公安委員会規則第一号新潟県道路交通取締規則第八条の制限に違反するけれども、右規則は昭和三十三年四月十五日新潟県公安委員会規則第二号(同日施行)により改正され、新規則第九条は第二種原動機付自転車を除外したため、本件自転車はその取締の対象とならぬことになつたのである。

凡そ法律はその実施以前の事実に効力を及ぼさないのである。この不遡及の原則に対する例外として、刑法はその第六条に軽き新法の遡及を規定している。これは立法者の恩恵に外ならない。従つて犯罪者に対し恩恵を施すことが一般に適当な場合にのみ、同条は適用され、恩恵を施すことが一般に適当でない場合は同条の適用が除外され、本来の法律不遡及の原則に戻るのである。然らば、如何なる場合に刑法第六条を適用して犯罪者に対し恩恵を施すべきかにつき案ずるに、政治、経済、思想その他社会情勢の変遷に伴い、過去において犯罪とされた行為に対する現在の評価が異るに至つたため、これを犯罪と認めないようになり、又はその刑を軽減した、例えば、刑法第七十三条乃至第七十六条に該当するような場合には同条を適用すべきであり、然らざる場合、即ち現在既に犯罪とされない行為又はその刑を軽減された行為を現在より観察しても行為当時の行為としては、これを処罪しなければ正義に反する、例えば物価の指定を告示に委任した物価統制令のような限時法的性格を有する法令違反の行為に対しては同条を適用すべきではない。飜つて本件につき案ずるに、道路交通取締法の目的は、その第一条に規定するように、道路における危険防止及びその他の交通の安全を図ることにあり、同法に基く同法施行令が、自転車の乗車人員等の制限を自ら規定せず、その第四十一条に「公安委員会は、自動車(そのけん引する諸車を含む)及び前条第一項の荷車以外の諸車につき、道路における危険防止その他の交通の安全を図るため必要と認める乗車人員又は積載重量若しくは積載容量の制限を定めることができる」と規定し、右乗車人員等の制限を公安委員会に委任している。而して、右諸車の中には各種の自転車を包含していることは明らかである。道路交通取締法施行令が、かかる規定の方式を採つているのは公安委員会をして時々刻々変遷する各地方の交通状態の実情に応じ、或るときは制限を強化し、或るときは制限を緩和し、交通の安全を図るため必要にして十分な適宜の規定を設けさせるためであつて、かかる公安委員会の規則が時勢の変遷に従い随時改廃さるべきことは当初より十分予想される限時法的性格を有するものであり、その違反行為をその改廃後において眺めても、遵法精神を欠如し、現在増加しつつある交通事故の防止に協力しないもので、刑法第六条の恩恵に浴さすべき何らの理由なく、これを処罰しないことが却つて正義に反するものと謂わなければならない。従つて本件の場合は刑事訴訟法第三百三十七条第二号の所謂犯罪後の法令により刑が廃止されたときに該当しないのである。原判決はこの点において法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れず、所論は理由がある。

(滝沢 久永 裁判長判事中村光三は退職につき、署名押印することができない。)

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